太陽電池と電気二重層コンデンサで ESP32 を運用していたところ,トラブルに遭遇したので紹介します.
トラブル
『太陽電池と電気二重層コンデンサによる ESP32 駆動』で紹介した構成のモジュールを運用して1年ほど経過したところで突如動作がおかしくなってしまいました.
次の画像は電気二重層コンデンサの電圧を示したものですが,7/20 あたりに通常よりも電圧が低下したあとデータの途絶が発生し,7/29 あたりからはもはや安定して動作しなくなっています.
開封したところ電気二重層コンデンサは破裂し,無残な姿になっていました.青色のフィルムが収縮しているので,おそらくそれなりに発熱したんだと思われます.
原因推定
電圧が大きく低下した 7/20 に行ったこととして思い当たるのは,ESP32 の通信相手のサーバの停止です.約2日間停止していました.
これにより,ESP32 はタイムアウトするまで WiFi を有効化する形となり,消費電力が増加し,結果として電気二重層コンデンサの電圧が低下したと思われます.
しかも,作成した回路では電源 IC の UVLO (入力電圧が低下したときに出力を停止する機能) を有効にしていなかったので,空になるまで使い尽くしたはずです.
ここで問題になるのが,電気二重層コンデンサの最低電圧です.使用していた 196 HVC ENYCAP の場合,LOWEST DISCHARGE VOLTAGE は 2.4V となります.
データシートには 2.4V を下回って放電したときの挙動は記載されていませんが,おそらくデバイスに回復不能なダメージを与えるのだと思われます.
電圧推移のグラフをみてみると,7/23 に復旧したあとは,電圧のピークがそれまでよりも低くなっていることが確認できます.
まとめ
電気二重層コンデンサを使う場合は,電源 IC の UVLO を忘れずに有効化しましょう.
コメント
電気二重層コンデンサが過放電で劣化した、ということなのでしょうか?
グラフを拝見すると最大電圧は4.0Vと4.5Vの中間付近なので、使われていた電気二重層コンデンサの耐電圧4.2Vをわずかにオーバーしているようにも見受けられますが、そのわずかな過電圧のダメージが積もり積もっての破損、という可能性はないのでしょうか。
私もあるデバイスを動作させるために電気二重層コンデンサを使用した回路を使っており、これまで何度も完全放電させていますが、とくに液漏れ等のダメージや性能劣化も確認できません。
充電電圧は使用している電気二重層コンデンサの耐電圧を0.1~0.2Vほど下回るよう余裕をみて使用しています。
鋭いご指摘ありがとうございます。
電圧に関しては、実際の値としては4.2Vをわずかに下回るように調節してあり、一応定格の範囲内となります。プロットはESP32の内部ADCな値なので、実際と誤差があり、上回っているように見えています。
ただ、無線LAN接続時とかの電力急変で過渡的にわずかに定格オーバーの可能性はあります。
故障タイミング的に、過放電と一致したので、有力と推測しましたが、過電圧の可能性は完全には排除できていません。
故障モードが激しかったのは今回使用したVISHAYのものの場合、ハイブリット型とかで、容量増やすためにリチウムを使っているのでその影響なのかもしれません。
補足です.
「リチウム」というのは何かと混同していたようです.メーカの資料だと,下記のように記載されているのみでリチウムはでてきませんでした.Hybrid であることによって,動作電圧範囲は狭くなっています.
http://www.vishay.com/docs/28427/pmansolcvpulcharhybcaps.pdf
Hybrid systems combine electrostatic and faradaic energy storage. Therefore, faster charging than a battery is possible. Hybrid
capacitor systems easily surpass the power density of batteries and have significantly higher energy density than double-layer
capacitors.
Due to the faradaic energy storage component, hybrid capacitors have a limited and narrow operating voltage range, similar to
batteries.
また,改めてデータシートをみたところ,Maximum surge voltage (max. 30 s) は 4.8V もあるので,過渡的に 4.2V を超えても問題なさそうです.
以前、電気二重層コンデンサを開発していた者ですが、電気二重層コンデンサは過放電の問題は起こりません。もともと、イオンが表面に移動するだけのものなので、電圧がゼロの時ほど長持ちします。電圧が高いと内部の溶媒が分解するなど問題がすぐに起こるので、できるだけ低い電圧ほど安定して動作します。さらに、今回のセルは2つを直接にして耐圧を4.2Vとしているので、セルの内部抵抗がずれると片方だけに電圧がかかるために劣化が進行します。どうして破裂したのかまでは分かりませんが、4.2Vという電圧値と高温で劣化が始まり、内部抵抗のバランスがずれて破裂となったのではないでしょうか。化学的な電気製品のマージンは、半導体やセラミックを使った製品に比べて狭いために気を付けないといけないことが多いです。
コメントありがとうございます.データシートに規定の規定で最も守れてなさそうなのが過放電だったのでそっちの方向性で考えていましたが,そうではないということですね.勉強になります.
屋外に置いている製品で,データシートの規定からの電圧マージンをほとんど確保していなかったので,温度変化等で何かあったのかもしれません.そう言われれ見れば,電源のFB抵抗の抵抗値が温度で変化したとかもありうるような気がしてきました.
時間を見つけてもう少し検証してみたいと思います.
貴重なアドバイスありがとうございました.