ひょんなことから磁気テープについて調べ始めたところ,大きな変化が起きていることがみえてきましたので紹介します.
はじめに
一般的には磁気テープってなじみが薄いと思いますが,最近のものはいろいろ進化していて,優れた特徴を持っています.
ストレージに関しては素人ですが,調べてみて目を引いた特長をあげると次のようになります.
- 継続する容量増加
- HDD を上回る書き込み速度
- 高い信頼性
- 長期データ保持
- 使い勝手
これらを踏まえると,写真や動画データを多く扱う個人の方には,大容量 NAS を継ぎ足していくよりも優れたソリューションかも知れません.
(ドライブは新品だと手が出る価格ではないのでヤフオクで調達のこと)
以降では,それぞれの特長について順に紹介します.
[20年1月17追記]
テープの性能向上を支える材料(BaFe磁性体)についてこちらに追記しましたので,合わせてご覧いただけると幸いです.
継続する容量増加
HDD とテープの記憶密度の変化を比較すると次のようになります.縦軸は対数です.
赤色でプロットされた HDD が 2000年代から伸び悩んでいるのに対し,緑色でプロットされた磁気テープはペースを緩めることなく密度を増やしています.ペースとしてはざっくり年30%以上.
その結果として,製品当たりの容量は次のように今後 HDD を大きく上回っていく見込みです.
HDD を上回るデータ転送速度
これはちょっとびっくりしたのですが,磁気テープは1,5000回転のエンタープライズ用 HDD よりも転送速度が速いです.当然,Blu-ray よりも圧倒的に早いです.
なんとなく,磁気テープは遅いイメージだったので意外でした.
補足ですが,転送速度は速いといっても所詮はテープなので,ランダムアクセスは桁違いに遅いです.カートリッジ当たりのテープの長さが次のようになっていることからも直感的に理解できると思います.(縦軸の単位はメートル)
高い信頼性
これは昔からかもしれませんが,テープドライブでは書き込み用のヘッドと読み取り用のヘッドが分かれており,書き込んだ直後に読出しを行い,正しく読み取れなかった場合は再度書き込みを行います.そのため,書いたつもりになるということがありません.さすがエンタープライズ向け。
当然ながら,ECC による誤り訂正も行われています.
長期データ保持
長期データ保持は昔から磁気テープの特徴でしたが,2010年代の初めに導入された磁性体の変更によってそれが強化されています.
具体的には磁性体がメタルからバリウムフェライト(BaFe)に変更になっています.バリウムフェライトはそれ自体が酸化物で安定した物質だそうで,温度や湿度の影響を受けにくくなっています.
テープは磁性体を磁化させることでデータを保持するので,飽和磁化という指標でデータ保持特性を評価するらしいのですが,BaFe の特性は驚異的です.
まず高温高湿での評価結果.従来のメタルテープ(MP)の特性が劣化していくのに対して,BaFe はほぼ変化ありません.
続いて,低湿での評価結果.こちらも同様の結果です.
テープは管理が難しいというのはもう過去のものになったのかも知れません.
これらを踏まえ,JEITA では BaFe を使った LTO-7 の寿命を 50年以上と推定しています.
よく言われるようにドライブが存在するかが問題になりそうですが,その不安がでてくる頃にはどこかがデータ読出しサービスとかしそうな気もしています.
使い勝手
個人で使う場合に一番影響が大きいのがこれだと思います.LTO では,LTO-5 から Linear Tape File System (LTFS) をサポートしており,これを使うとテープを普通のストレージと同じように扱うことができます.
すなわち、Windows であればエクスプローラを使ってファイルの書き込みや読出しが行えます.
LTFS は Mac や Linux でもサポートされています.
参考文献
- The role of barium ferrite in data storage
- https://www.pmddatasolutions.com/admin/resources/the-role-of-barium-ferrite-in-data-storage.pdf [キャッシュ]
- The technical and operational values of barium ferrite tape media
- http://www.oracle.com/us/products/servers-storage/storage/tape-storage/esg-wp-fujifilm-bafe-2189800.pdf [キャッシュ]
- テープストレージ動向2018年版
- https://home.jeita.or.jp/upload_file/20180725112701_jYahZ5OUKI.pdf [キャッシュ]
- ビッグデータ利活用時代における磁気テープによるデータの長期保存
- https://home.jeita.or.jp/upload_file/20190716154136_QizWkNZ1oH.pdf [キャッシュ]
- LTO 7テープメディアの寿命評価
- https://home.jeita.or.jp/upload_file/20190108152636_yKSGflV1ix.pdf [キャッシュ]
- JEITA テープストレージ専門委員会
- https://home.jeita.or.jp/cgi-bin/about/detail.cgi?ca=1&ca2=292
コメント
非常によくまとまっている良い記事だと思いました。
長期(20年以上)保管という事であれば、やはりテープメディアは非常に有利ですね。個人用途だとドライブ確保が確かに課題ですが、そこさえなんとかなるのであれば比較的低コストで容量を増やせて、安定したデータ保管が可能です。
ただ、個人用途でも業務用途でも、ドライブの確保は結構難しくて、ドライブのメンテナンスや定期的な入れ替え等、結構考える要素とそこにそれなりのコストがかかってきます。
最近はその辺りのコストをクラウド系サービスで代替・丸投げできてしまうのも、なかなかテープメディアが注目されにくい要因かもしれませんね。
ちなみに、
https://www.sony.jp/products/Professional/DataArchive/solution/hybrid/index.html
過去にはこんな製品がありまして。
テープの信頼性はよかったのですが、メーカの信頼性がアレで、えらい目にあいました。。。
(販売終了× → 市場撤退、サポート打ち切り)
コメントありがとうございます。
業務で本格的に使うとなるとテープライブラリが欲しくなってきて、そうなると記載いただいたように色々と煩雑さも増えそうですね。
そう考えると、丸投げできるクラウドが受け入れられる下地はそこにもあったのでしょうね。