磁気テープの進化を支えるバリウムフェライト磁性体

サーバー

前回の記事で磁気テープが大容量化・高速化した上にデータ保持期間が延びていることを紹介しましたが,それを支えているバリウムフェライト磁性体について深掘りしてみました.

はじめに

テープメディアの性能を決めるのはテープとヘッドだと思いますが,調べてみると最近の性能向上には磁気テープの磁性体変更が大きく寄与しているようです.

具体的には富士フイルムが 2012 年に初めて磁気テープに適用したバリウムフェライト(BaFe)という磁性体になります.この変更により,次のように停滞するトレンドにあった容量増加のペースが再度加速しました.

従来の磁気テープで使われていたメタル(MP)との見た目の違いは次のようになります.

パッと見ただけでも何か大きな変化が起こっている印象を受けると思います.以降では,バリウムフェライトの特長が磁気テープの性能向上にどう寄与しているのか順に紹介してみたいと思います.

なお,この分野に関しては素人のため,間違っていることがありましたら指摘いただけるとありがたいです.

高い保磁力

BaFe は従来に比べて小さい体積で高い磁力を保持できます.次のグラフは横軸に体積,縦軸に体積を取ったものですが,BaFe は MP の半分以下の体積で同等以上の保磁力を示しています.

これにより,粒子径を小さくすることができ,記憶密度を高められます.

高い安定度

粒子径を小さくした場合,大気に暴露される面積が増えるので,長期保存への影響が気になります.バリウムフェライトは酸化物で安定した物質であることからここでも優れた特性を示します.

粒子サイズと保磁力の耐久性について評価した結果は次のようになります.BaFe は MP よりも小さい粒子サイズでも保磁力の低下がほとんど見られません.

 

なんと,60℃で一年間放置してもエラーレートはほぼ増加しません.

 

MP だと酸化防止のための保護膜が必要な上に,粒子サイズを小さくするのは長期信頼性とトレードオフがあったのに対し,BaFe は保護膜なしでどんどん粒子サイズを小さくできるようです.

垂直方向の磁性配向

従来の MP ですと細長い粒子形状から,磁性配向は水平になっていました.一方,BaFe の場合は粒状であることから垂直方向にできます.(下図の赤矢印が磁性の配向)

これによって次のようなメリットがもたらされます.

  • ヘッドが記録データを読み取りやすくなる
  • 記録データ間での干渉が減る (上図の赤色の矢印の方向がぶつからない)

この特性を活かすことで,読み取り速度の高速化が実現できます.

また,実際に磁気テープを運用する上で気になるヘッドの寿命向上にも寄与します.MPの場合はヘッドが摩耗してくるとエラーレートが増加しますが, BaFe の場合はほとんど変化がありません.

デメリット

これまで BaFe のメリットばかり書いてきたので,最後にデメリットの紹介をします.

富士フイルムの論文には次の4項目が記載されていました.

  1. BaFe 磁性体が微粒子かつ板状のため磁性体同士が非常に凝集しやすく,従来の分散技術・塗布技術では均一・平滑な薄層磁性層を構築できなかった.
  2. BaFe 磁性体の飽和磁化量(Ms)が小さいためMPテープと比較して再生出力が低く,それを補う高感度な磁気ヘッドが必要であった
  3. BaFeテープが垂直磁化成分を有するため孤立反転波形の対称性が著しく悪く,その非対称性を補正する信号処理技術が必要であった
  4. BaFe テープに興味をもち,テープシステムを共同開発するシステムメーカ候補がいなかった.

テープ自体の開発としては,新たな製造技術で 1 を克服したのがブレークスルーになったようです.

2 と 3 については,下の図がわかりやすいです.BaFe は保磁力の低下割合が小さくても,従来のヘッドだと信号レベルの絶対値が小さくて読み取れなかったんですね.

今後について

LTO ロードマップ上は今後も容量が増えていくことになっています.BaFe テープとしては表面の平滑度を向上させて,ヘッドと磁性体を近づけることでこの実現に貢献してくようです.

余談

LTO の場合,BaFe は LTO-6 から導入されていますが,LTO-6 では MP も規格として認められています.そのため,以上で紹介した BaFe のメリットを享受したい場合テープの選択が重要になります.

調べて見た感じ,下記のものは BaFe を採用しているようです.

  • 富士フイルム製の LTO-6 テープ
  • IBM 製の LTO-6 テープ (おそらく製造元は富士フイルム)
  • HP の LTO-6 テープ C7976B (末尾が A のものは MP)

LTO-7 以降は BaFe のみなので気にする必要はありません.(ただ,今のところドライブは中古でも個人利用で手の出る価格ではありません…)

参考文献

The role of barium ferrite in data storage
https://www.pmddatasolutions.com/admin/resources/the-role-of-barium-ferrite-in-data-storage.pdf [キャッシュ]
富士フイルムの英国の営業部門が作成した資料のようですが,内容がわりと過激です.一例を挙げると,LTO-6 の MP テープは量産時のばらつきを考慮するとLTO-6 の規格を満たしていないものもある,とかすごいことが書かれています.
データストレージ用磁気テープの高密度化研究
https://www.jstage.jst.go.jp/article/synth/10/1/10_24/_pdf/-char/ja [キャッシュ]
BaFe の実用化に至る道のりが紹介されています.
Advanced Barium Ferrite Tape Technologies
https://www.snia.org/sites/default/files/OsamuShimizuAdvanced_BF_Tape-2.pdf [キャッシュ]

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