電気二重層コンデンサで Raspberry Pi を駆動するにあたり,放電特性を調べてみました.
はじめに
電気二重層コンデンサのスペックには電圧と容量が記載されているので,そこから稼働時間を計算してしまいがちですが,実際の挙動は期待するものと異なる可能性がありますので調べてみました.
使用したのは,Vshay の 196 HVC ENYCAP シリーズの電気二重層コンデンサ MAL219690102E3 です.
スペックとしては 5.6V 90F なので,計算上は 90 * 5.6^2 / 2 = 1411J のエネルギーを蓄えられそうです.
一方,データシートに記載されている値は 460J で 1/3 程度の値にとどまっています.
この値の差がどのような挙動として現れてくるのか,以降で調べていきます.
定電流放電
210mA の定電流放電させたときの電圧の推移を以下に示します.実測値と緑色で,理論値をオレンジ色で示してます.
このグラフから,次の 3点が読み取れます.
- 電圧が 4.4V になるまでは理論値と一致
- 放電されたエネルギーはスペックとほぼ一致
- 放電の終盤の内部抵抗はかなり大きい
電圧が 4.4V になるまでは理論値と一致
理論値の計算式は となりますが,電圧が 4.4V になるまではほぼ一致してます.仕様上の放電可能電圧は 3.2V (0.8V * 4cell)ですが,それよりも 1V 以上手前で挙動に大きな変化が現れるようです.
放電されたエネルギーはスペックとほぼ一致
5.4V から 4.4V まで放電するのにかかった時間は 450 秒なので,放電されたエネルギーは .これは,データシートに記載された 460J とほぼ一致します.
ほぼデータシート通りといって良さそうです.
放電の終盤の内部抵抗はかなり大きい
電圧がほぼ 0V (正確には 0.3V) になった後に放電を停止すると,電圧が 4.5V まで急回復しています.このことから,この時点での内部抵抗は, まで増加してしまっていることがわかります.
ELDC のモデルとしては下図のようなものが提案されていますが,一番下の Rn が大体 20Ωということがいえそうです.
定電力放電
続いて,実際のユースケースを想定して,1.05W の定電力で放電させた場合の電圧の推移を以下に示します.計測は,ELDC を 5V 出力の SW 電源を介して 210mA の定電流負荷に接続することで行いました.
このグラフから,次の2点が読み取れます.
- 電圧が 4.6V になるまではきれいな特性
- 放電されたエネルギーは SW 電源の効率を加味した値とほぼ一致
電圧が 4.6V になるまではきれいな特性
定電力で放電することにより,放電が進むにつれて電流値が増えていくことになりますが,それでも4.6V になるまでは定電流放電時と同じくきれいな特性が保てています.
定電流の時の 4.4V の時よりも特性悪化が早まっているのは電流値が増えたことにより,内部抵抗影響を受けやすくなったためだと考えられます.
放電されたエネルギーは SW 電源の効率を加味した値とほぼ一致
5.4V から 4.6V まで放電するのにかかった時間は 320 秒なので,放電されたエネルギーは .これは,定電流放電の場合の約 73% に相当します.
今回使用した SW 電源 IC (LT3580) は 5V 200mA 出力の時の効率は,降圧で約 73%,昇圧で約 78% なので,この変化の大半は SW 電源の効率で説明がつきそうです.
おまけ
電気二重層コンデンサの評価をする場合,電子負荷を使用するのがお勧めです.
ちょっと敷居が高く感じますが,AliExpress だと左のものが $20 未満で入手できます.「Electronic Load」で検索すると他にも色々あります.
安いですが,ちゃんと機能します.200mA の設定で定電流放電させたときの電流値は下記のようになります.
オフセット誤差はありますが,それ以外はきれいな挙動です.(最後の方に低下しているのは電気二重層コンデンサが空になったためです)
まとめ
電気二重層コンデンサに蓄えることができる電力は,スペックの C と V で計算されるものと大きく異なります.
データシートの独立した項目に値が記載されているので,それを参照するのが良さそうです.
コメント
・内部で複数セルが直列接続されているものとは異なる、単セルの電気二重層コンデンサでも同様の傾向になりますでしょうか。
・使用された負荷はすべての電圧域において本当に定電流でしたでしょうか。
コメントありがとうございます.
今回測定したのは4セルのもので,単セルのものは持っていないので測定していません.
負荷については,全ての電圧域で定電流になっています.測定したものをおまけのところに添付しました.
この確認の過程で実際の放電電流が 210mA であることが分かりましたので,本文修正しました.ご指摘ありがとうございました.