富士フイルムがソニーを訴えた約一年後,今後はソニーが富士フイルムを磁気テープの特許侵害を ITC に訴えています(調査No.337-TA-1058).前回に引き続いて少し深掘りしてみます.
参照ドキュメント
今回主に参照したのはこちらのドキュメントです.
NOTICE OF COMMISSION FINAL DETERMINATION OF VIOLATION OF SECTION 337; TERMINATION OF INVESTIGATION; ISSUANCE OF LIMITED EXCLUSION ORDER AND CEASE AND DESIST ORDERS [キャッシュ]
対象となった特許
さっそく,対象となった特許を見ていきます.次の3点です.
- 7029774 (JP2004319015)
- 【請求項1】
非磁性支持体の一方の面上に、少なくとも非磁性粉末と結合剤樹脂とを含む下層非磁性層を有し、前記下層非磁性層上に少なくとも強磁性粉末と結合剤樹脂とを含む上層磁性層を有し、前記非磁性支持体の他方の面上にバックコート層を有する磁気記録媒体であって、前記上層磁性層の厚みは0.03~0.30μmであり、上層磁性層のAFM表面粗さRaは6nm以下であり、上層磁性層表面における深さ30nm以上の凹みの数は表面積1cm2 当たり5個以下である磁気記録媒体。 - 6674596 (JP2000268443)
- 【請求項1】 磁気テープが収納されたテープカセットが装填された際に、前記磁気テープを走行させるとともに前記磁気テープに対する情報の記録または再生を行なうことができるテープドライブ手段と、装填された前記テープカセットの前記磁気テープに対する記録または再生を管理するための管理情報を記録するメモリが備えられている場合に、そのメモリに対して所要の通信処理を行い管理情報の読み出しまたは書込みを行なうことができるメモリドライブ手段と、前記メモリから、前記テープカセットに対応した用途を指示する用途識別情報を検出する用途識別情報検出手段と、所要の動作コマンドが供給された場合に、前記用途識別情報に基づいて前記磁気テープに対する動作を行う制御手段とを備えて構成されていることを特徴とするテープドライブ装置。
- 6979501
- A magnetic recording medium comprising a biaxially tensilized Substrate having a front Side and a backside, a longitudinal direction and a croSSweb direction, Said Sub Strate having a magnetic layer formed over Said front Side of Said Substrate comprising magnetic pigment particles, and a binder System therefor; Said magnetic recording medium having a croSS web dimensional difference from a Substrate wafer of an Al-O TiC bi-phase ceramic formed from aluminum oxide and titanium carbide of less than 900 microns/meter over a temperature range of about 35 degrees, and over a relative humidity range of about 70%, and a coefficient of thermal expansion having a value Said mag netic recording medium having a coefficient of thermal expansion of from about 5 ppm/C to about 10 ppm/C, said coefficient of thermal expansion being from about 50% to about 150% of the coefficient of thermal expansion for the Substrate wafer.
774特許は,調べていて気づいたのですが,元となった特許を 2003年に 日本で出願したのは TDK でした.TDK は 2014年に LTO テープから撤退しており,それに伴って特許を売却したようです.訴えた時点でソニーのものになっています.
内容的には磁気テープの構造に関するもので,分野的にはソニーの侵害が認定された特許と似てるように感じます.反撃にふさわしい感じがして良いですね.
596特許は,WORM (Write Once Read Many) テープに関するものです.WORM テープは一度しか書き込めないテープです.本来,磁気テープは光ディスクと違って上書きできますが,用途に酔ってはこの特性が望ましくない為,カートリッジ内の不揮発メモリを活用することで機能的に上書きを禁止することで実現しています.
ぱっと見の内容的には必須特許となって強制ライセンスの対象になりそうですが,記録を見る限り標準特許に関する議論はされていないようでした.
501特許は日本では出願されていないので内容よく分かりませんでした.
審議の経緯
審議は次の経緯とたどりました.
年月 | 動き |
---|---|
2017年6月 | 調査開始. |
2018年3月 | ソニー一部請求項を取り下げ. |
2018年3月 | (調査No. 337-TA-1012において,LTO-7 に関してソニーの特許侵害認定.ソニーの LTO-7 テープの輸入禁止) |
2018年8月 | 行政法裁判官は,仮決定において,774特許および596特許の侵害を認定. 501特許は請求項が無効なので,認定されず. |
2018年9月 | 両社,仮決定を見直しを請願. |
2018年10月 | 特許審判委員会(PTAB)は774特許の請求項15と17は特許性がないことを認定. |
2019年3月 | 774特許と596特許の侵害を認定.774特許と596特許を侵害している富士フイルムのテープカットリッジの輸入禁止. |
調査開始してから 9ヶ月後の時点でソニーは LTO-7 の輸入禁止をくらっており,負けられない戦いになっていたと思われます.
対する富士フイルム側は該当の特許は実施していた様子で,反論の内容は ITC の審議の前提となる国内産業要件の不足や,特許の無効化が中心になっています.
結果としては,国内産業要件はソニーの主張が通り,特許の無効化については501特許と774特許の一部については成功したものの,残った774特許と596特許の侵害が認定されました.
業界の混乱
両社痛み分けとなったわけですが,LTO テープの業界はあおりを受けて多大な迷惑を被ったようです.LTO ドライブを作っている IBM とかは激怒していそうです.
数字としてどのくらい影響があったか気になったのですが,残念ながら現時点では LTO Consortium が 2018年以降のカートリッジ出荷データを公開していないのでよく分かりませんでした.
余談: アメリカ国際貿易委員会(ITC) について
今回いろいろ調べる中で,闘いの場となった ITC についても調べてみたので最後に簡単に紹介したいと思います.
ITC の立ち位置については,次のページがわかりやすかったです.[キャッシュ]
普通の裁判と比較して手続きが早いのが魅力のようですが,一方で次の内容がちょっと気になりました.
ITCにおける337条調査では金銭的な救済はありません。 ITCができることは、排除命令(Exclusion orders)によって、関税(Customs)で侵害品のアメリカへの輸入を止めることです。
今回調べた LTO のように訴訟合戦になると色々と大変そうです.
ただ,手続きの速さの魅力には勝てないのか,年々調査件数が増えているようです.
対象となっている分野としては,次のような割合になります.
SECTION 337 STATISTICS: TECHNOLOGY AREAS OF ACCUSED PRODUCTS (% OVER THE YEARS)
グラフの下からの3項目,情報・自動車.医療関係で過半を占めているようです.
面白かったのは,2011年に 17% を閉めていた液晶テレビがここ数年は5%以下に落ち着いていることです.ある程度業界が整理されて落ち着いてきたということでしょうか.ただ,この理屈だと IC (Integrated circuits) も同じような傾向があるのがよく分かりません.
輸入差し止めは過激すぎる,ということで戦いの場が変化したのでしょうか.
興味は尽きないです.
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